風の冷えを感じ、ふと目を覚ました。辺りは薄暗く、人の気配はない。
「…!?」
今、何時だと思い携帯を見る。暗闇の中でほんのり光を発するそれには19時と示されていた。
「………。」
何とも言えない絶望感を感じ、とりあえず自分の手元を見渡してみる。すると、あるはずのない自分のカバンとその上に猫の柄が印刷されている一冊のノートを見つけた。
僕はその一冊のノートに手を伸ばす。そのノートの表紙には見覚えのある名前。
「…香月さん?」
なぜ彼女のノートがあるのかと思いつつ、そのページをめくる。
はらり、と小さなメモ用紙がノートの隙間から落ちてきた。僕はとっさにメモ用紙を手に取りその内容を見た。
メモ用紙にはこう書かれていた。
『そんなところで寝てると風邪ひいちゃいますよ。』
……いや、彼女にだけは言われたくないのだが。
しかし、よく考えてみる。
彼女は授業中ほとんど、というか僕が見た限りではすべての科目で寝ている。
それがどうだろう、そのノートには可愛らしい丸い字体で綺麗に板書がしてあり、先生の放った言葉のメモまでしっかりと記入されている。
そして板書の最後には『ノートに写してくださいね』と書かれていた。
あの香月さんが起きていてくれたのだろうか。一人のクラスメイトでしかない僕に、ノートを見せるために。
そう考えると、嬉しいような申し訳ないような不思議な気持ちになった。
僕は家に帰るため、急いでノートをカバンにしまい一直線に走り出した。
家に帰り、ノートを写して寝る支度をした。明日、お礼に何かコンビニで買ってから学校に行こうと決め、眠りについた。
……次の日、僕は見事に風邪をひいてしまい、再び香月さんのお世話になったのはまた別の話である。
擱筆2020/02/20
連載終了2020/03/17