「夜のコンビニ」1-a

 『春』と言う季節が、次の季節に移ろうと準備をしているのかと思えてしまうような穏やかな気温の上昇が見られる今日この頃。

 学校ではベスト、カーディガン、合服等さまざまな格好の生徒が見られるようになってきた。

 しかし夜はまだまだ薄寒いので半袖のみでの外出というわけにもいかず、僕こと『菊麦藁太郎(きくむぎ こうたろう)』は薄めの生地のパーカーを羽織り、夜のコンビニに行くべく足を進めていた。

「(この時間に食べるカップ焼きそばは美味しいんだよなあ……。あれは罪の味だ。)」

 夜中に食べるカップ焼きそば。昼間に食べても美味しいのだが、夜中になるとさらに美味しく感じるのは僕だけなんだろうか。1度覚えた『罪の味』が忘れられずにいる僕は再びそれを味わおうと夜のコンビニに出向いていた。

「(カップラーメンも捨てがたい……。いやでも、やっぱりあのカップ焼きそばが……)」

 などと考えているうちに家から5分もしない場所にあるコンビニチェーン店へと到着した。コンビニの自動ドアが開ききるのを待ち入り口をくぐる。

 外よりも異様に明るい店内を見渡し、いつもの商品のコーナーへと向かう。

 ……そこには、先客が居た。

 いつもなら早く他の場所に行かないかと別の商品を見ながら待つところだが、今回ばかりは例外中の例外だった。

 そこに立っていたのは細身の身体で少し低い身長、いつもは眠たげなのにこの時ばかりは驚くほど集中している姿、そして首をひねるたびに左右に揺れるピンク色のくるりとした特徴的な髪の毛。

そう、香月(かづき)さんが居た。

「この時間のカップ焼きそばは罪の味なのです。」

 ……どこかで聞いたような言葉を声に出しながら、彼女は真剣にインスタント食品の棚を「じーっ」と見つめていた。