「夜のコンビニ」1-b

 香月さんがインスタント食品の棚を見つめて、約3分。

 ……いや、僕がインスタント食品を選ぶ香月さんを見つけて約3分の方が正しいだろう。香月さんはアレでもないコレでもないと豊富な種類が用意されているカップ焼きそばを手に取っては戻し、または両手に持って比べてみたりと、かなり真剣に今夜食べるのであろう食品を品定めしていた。

「むむ……激辛はよくないのです……喉に優しくないです。」

 おそらく心の声であろうものが口から漏れているのも構わず、香月さんは選び続ける。……こんな形で彼女がしっかりと起きている姿を見ることになるとは、誰も思わないだろう。というか、学校でもそうあってくれと思うのは僕だけだろうか……。

 過去に授業の問いを代わりに答えたことを思い返しながら、僕はインスタント食品の棚に近づいた。

「香月さんこんばんは、こんなところで会うなんて偶然だね。」

「…………。」

 ……聞こえてない。これは確実に聞こえてない。なぜ彼女がこの時間にここのコンビニにいるのか等、謎は色々あったがこれだけはわかる。彼女は集中すると何も見えなくなるタイプの人だ。絶対に。

「えっと……、香月さん。僕もその棚に欲しいものがあるんだけど……。」

「えっ?わ、すみません。独り占めしてしまいました。」

 声をかけるとようやく香月さんはこちらに気付き謝罪の言葉を口にした後、僕の顔を一瞬、ちらりと見た。

「……ん?あれ、‪藁太郎さんじゃないですか。こんな時間に偶然ですね。」

 ……まあ、誰だと気付かれていないのはわかってはいたが、自分は結構影が薄い人間だったのではないかと勝手に傷ついた。

 そんなことはないと自分に言い聞かせ、香月さんが空けてくれたスペースに立ち、2人並んでインスタント食品の棚を眺める。

 僕はいつも買っているカップ焼きそばを見つけ、それを手に取る。香月さんは変わらず迷い続けていた。香月さんが持っている2種類のカップ焼きそばを見てみると、マヨネーズが入った焼きそばとスタンダードな味付けの焼きそばが両手に握られていた。よく見るとマヨネーズ入りの方には小さく「とうがらし入り」とも書かれている。

「よしっ、決めました!こっちにしちゃいましょう!」

 そう言って香月さんはマヨネーズ入りを選んでレジに向かおうとした。